ヘルパーの経験を生かし、ケアマネジャーの道へ

ウィズコロナの時代に入り、私たちの働き方はここ数年で大きな変化を強いられた。人と人が直接会う機会を減らし、リモートで職務にあたることを求められるなかで「エッセンシャルワーカー」という言葉を耳にする機会が格段に増えたように思う。

essential workerとは、直訳すると「必要不可欠な労働者」であり、社会基盤を支えるために必要不可欠な仕事に従事する人びとのことを指し、医療・福祉や保育、運輸・物流、小売業、公共機関などが該当するとされている。感染リスクと隣りあわせにこうした現場で働く人々に対して、世界の各地から賞賛が集まったことも記憶に新しい。一方で、厚生労働省の「令和2年版厚生労働白書」では、2040年には就業者の約5人に1人という割合で医療・福祉分野に従事する必要があることが示されており、人手不足が顕著な職種である実態も問題視されている。

諸外国に例を見ないスピードで高齢化が進む日本社会において、今後の医科・歯科のあり方を見据えながら幅広く知見を深めることを目的に、このたびケアマネジャーとして働く堀田みどりさんにお話を伺った。ウィズコロナの時代に入り、私たちの働き方はここ数年で大きな変化を強いられた。人と人が直接会う機会を減らし、リモートで職務にあたることを求められるなかで「エッセンシャルワーカー」という言葉を耳にする機会が格段に増えたように思う。

▲堀田みどりさん

 ケアマネジャーとして千葉県内の「ローゼンホーム上山ケアプランセンター」に勤務する


ケアマネジャーは、介護や支援を必要とする人が介護保険制度を利用して自立した生活を送れるようにサポートを行う仕事であり、正式名称を「介護支援専門員」と呼ぶ。具体的には、介護保険制度を利用する方の生活状況に応じて適切なサービスを組みあわせたケアプランを作成するのが役目となる。作成したプランによって、医療従事者やサービス事業者、行政の担当者などと連携をし、支援を必要とされる方が生活しやすいようにコーディネートを行なう橋渡し役を担うそうだ。

千葉県内にあるケアプランセンターで在宅の居宅介護支援を担当されている堀田さんだが、ケアマネジャーの資格を取得する以前はホームヘルパーとして在宅の介護にあたってきたという。

「当時は、子育てをしながら別の仕事の合間にヘルパーの資格を取得し、10年ほど従事しました。その後、ケアマネジャーとして働いて12年になります。ヘルパーの場合、利用者さんの自宅へ行ってトイレ介助や入浴介助、お食事を作ったりと直接支援させていただいたのですが、全体を見通した上で利用者さんに必要なサービスを主体となって考えるということがなかなかできなくて」

介護の現場で直接支援にあたる介護職員やホームヘルパーは、ケアマネジャーが作成したケアプランに従い利用者に介護支援サービスを提供することが決められている。そのため、サービスを提供している過程でケアプランの変更が必要になった際には、必ずケアマネジャーに相談の上、変更してもらわなければならないそうだ。

堀田さんはヘルパーとして支援にあたるなかで、介護の入り口となるケアプランを組み立てるところから利用者やその家族と関わりたいと思い、資格の取得を目指したと教えてくれた。ちなみにケアマネジャーの受験資格は、介護や看護、歯科衛生士など定められた職種の現場で5年以上の実務経験がある人に限られる。十分なキャリアを持つ人が取得できる資格であるため、現場のことをよく理解し、利用者に寄り添った主体的な仕事ができる職種である。

▲訪問時の持ち物(市町村が発行する福祉ガイド等を参照しながら具体的なプランを提示する)


他職種との適切な連携が「生きる力」の回復に繋がる

ケアマネジャーは、アセスメントによって支援を必要とされる方の意向や本心を引き出しながらケアプランを組み立てていくことが主な役割だ。その一方で、利用者が生活しやすくなるように、職域を越えて様々な方と連携をとることも大切な役目だという。

近年では、嚥下状態を改善するために他職種で連携するケースは非常に多く、まずは歯科で飲み込みとレントゲンの検査を行い、器官に食べ物が入っていないか、飲み込みがどういうかたちでされているかを調べてもらうのだそう。

「歯科では、口内の状態だけではなく生活状況や食事内容、介護環境なども考慮した上で体操の指示や食事内容の提案、食事が難しい場合には栄養のあるゼリーやとろみをつけてむせないようにというかたちでアドバイスをいただきます。施設に入っている方の場合は、食事の形態を栄養士さんと一緒に考えたり。食事が摂れないと栄養状態も悪くなって誤嚥性肺炎のリスクも高まるため、内科の先生とも連携をとっています。また、言語聴覚士さんの協力のもと、お口の体操や声を出すリハビリをしていただくこともあります」

利用者の嚥下状態の改善に向けて、食事の介助を行うヘルパーや看護師との協力も欠かせないという。

「利用者さんの経過を追って見ていると、本当に関わってくださる皆さんのおかげだと思います。例えば、食事のたびにむせてしまい普通の食事が難しいため流動食だった方がいらしたのですが、だんだんご本人の食べる意欲も低下して食事を食べなくなってしまったので、内科の先生から栄養補助の飲み物を出してもらっていました。そこから言語聴覚士さんによる体操のリハビリをはじめ、歯医者さんや介護職の方などみんなで嚥下状態の回復に取り組んだところ、少しずつ状態が良くなってきたんですね。

今までドロドロの流動食だったところから形のあるものも食べられるようになったことで、ご本人の食事に対する意欲も出てきて、生活全体に対する前向きな姿勢が感じられるようになりました。なのでお口の健康やお食事というのは、生きる力に繋がっているすごく大事な営みだと思います」


こうした好循環の事例がある一方で、他職種と連携を取る際に堀田さんが難しいと感じることについても伺った。

「比較的大きな病院のお医者様との連携は取りにくいことが多いですね。訪問診療に来てくださる先生や個人病院の場合は、一緒に同行したりお話を伺うこともできますが、大きな病院の先生だとお手紙の返事がなかなか来ないこともあるので、受診時に付き添われるご家族に伝言を頼んだりしています」

また、近年は入院後も早期退院となるケースが多く、在宅医療の需要が高まっているため訪問診療を行う医師も増えているのだそう。

「在宅で治療を行う場合は、月に2回ほど訪問診療の先生に来ていただくのですが、ご家族も長い時間病院で診察の順番を待ち、限られた短い時間で医師の話を聞くよりも、直接自宅に来ていただけるのでお話もしやすいですし、寝たきりの方などは通院も大変なのでとても助かっていらっしゃいますね」

急速な高齢化によって医療や介護の需要が増えることに伴い、訪問診療をはじめとし、住み慣れた地域における福祉や医療、生活支援の拡充は今後もますます求められていくようだ。


話しやすい雰囲気と、丁寧な聴き取りを

ケアマネジャーとして利用者とコミュニケーションを深めるために、堀田さんが日ごろ心がけていることについて伺ってみた。

「まずは話しやすい雰囲気をつくり、これまでどういう生き方をされてきたか、どういうものが好きでこれからどういうふうにしていきたいかなど、利用者さんの意向や生活歴などを丁寧に伺います。ケアプランをつくる上でもこれから一緒に歩んでいく上でも、少しずつでもいいので利用者さんに心を開いて話していただけるように心がけています」

ケアプランを組み立てる際に、サービスを受ける当人が必ずしも前向きな気持ちではないことへの配慮も欠かせない。そのほか、サービス利用者とサポートにあたる家族との意向にズレが生じてしまうことがあるのも介護の現場だという。そうした場合の対応について堀田さんはこのように話す。

「まずはその方の意向をじっくり聞いた上で、なぜそのケアが必要かということをしっかり説明します。やはり費用もかかることですので、ご本人やご家族に納得してもらいリハビリなどの成果が現れて、これはよかったんだなということがわかっていただけるように努めます」

なかには頑なに「歯科にはかからない」という方などもいると言う。そのような場合は「一度まず、お口の中を見てもらいましょう」と促すことで、検診の際に入れ歯の調整など必要なことが見つかり、徐々に嚥下の治療に移行したりもするのだそう。

「皆さん、まだ大丈夫と思っていらっしゃるのですが、本当に歯医者さんに診ていただくことが必要な場合も多くありますので、その必要性、メリットを感じていただくようにしています」

なお、近年は高齢化に伴う介護だけでなく、介護やケアを取り巻く環境も複雑化・多様化しているという。

「中高生などの若い方が、いわゆる『ヤングケアラー』として精神疾患をお持ちのご家族をケアされている事例もあり、身体的・年齢的に介護を必要とされる方だけではなく、うつ病の方などもいらっしゃいます。

そのほか、認知症がある高齢の夫婦と知的障害をお持ちのお子さんの3人家族を担当しているのですが、それぞれに治療やリハビリ、生活支援を必要とされているけれど、知的障害をお持ちのお子さんを家に一人置いて行けない。これから先自分たちがどうにかなったらこの子をどうしたらいいかということで、障害を持つ方を対象とした支援事業所などとも連絡を取りながら少しずつ連携の輪を広げています。介護を必要とされるケースも多様化し今までの意識では追いつかない部分も多いため、今後も勉強していかないといけないと思っています」

現在の仕事を続けるなかで、複雑に入り組んだケースを前に気持ちが落ち込んでしまうこともあると語る堀田さん。そのようなときには施設に勤務する同僚のケアマネジャーや介護スタッフなどを交えて利用者のプライバシーを守る形で「事例検討会」を行ない、一人で抱え込まずに多様な知識や意見を取り入れることを大切にしていると教えてくれた。


包括的な地域づくりへ参与していきたい

最後に仕事のやりがいと今後の目標について伺うと、堀田さんはこれまで関わった方たちのことを思い浮かべるように懐かしみながら、このように話してくれた。

「最初に利用者さんのもとを訪問したときに、『早く死にたい』と言われる方もいらっしゃるのですが、そうした方がだんだん笑顔になって『明日デイに行くの楽しみだわ』『こういうことができたんだ』と言っていただけるようになるとすごく嬉しいので、そういった方が増えていくのが目標ですね」

あとは『地域包括ケア』と言って、介護や医療、地域の方など多職種の方が関わって買い物や交通の便など 生活の障害となることをみんなで一緒に検討し、高齢者が住み慣れた現在の地域でこれからも元気に過ごせる地域作りに向けて、ケアマネとしてお手伝いをしていきたいと思っています。」

堀田さんから話を伺い調べたところ、厚生労働省のホームページで「地域包括ケアシステムの実現へ向けて」このような指針が示されていた。


” 日本は、諸外国に例をみないスピードで高齢化が進行しています。65歳以上の人口は、現在3,500万人を超えており、2042年の約3,900万人でピークを迎えますが、その後も、75歳以上の人口割合は増加し続けることが予想されています。このような状況の中、団塊の世代が75歳以上となる2025年(令和7年)以降は、国民の医療や介護の需要が、さらに増加することが見込まれています。
 このため、厚生労働省においては、2025年(令和7年)を目途に、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進しています。”(引用元:厚生労働省HP


高齢者や介護を必要とされる方にとって、地域での生活が不便だと生活をすること自体に支障がでてしまうと堀田さんは言う。

「生活が不便だと『やっぱり施設に入ろうか』とか、息子さんや娘さんのところに引き取られてということがある一方で、住み慣れた環境でご近所にお友達もいて『やっぱりまだここに居たい』と思う方もたくさんいらっしゃいます。なのでできる限り住み慣れた家や街で過ごすことが叶う地域になるように、存在しないサービスは市などに直接働きかけや提案をしたり、ケアマネとして微力ながらみんなで協力していきたいですね」

また、介護保険は縁のない人にとって、3年ごとの改正などわかりづらい部分もあるが、こうしたサービスを使うことで生活がしやすくなることをぜひ多くの方に知って欲しいとのこと。

介護やケアをめぐる物事は決して他人事ではなく、誰もが年を重ね、いずれは自分ひとりの力だけで生活を続けることは難しくなっていく。取材の終始、わかりやすい言葉と柔らかい物腰で介護の現在について教えて下さった堀田さんのような存在は、介護サービスの利用者の大きな拠り所となっているように感じられた。

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